冬眠(とうみん)するヤマネが、真冬(まふゆ)のカメラに写ったのはなぜでしょう?

木にできた穴で丸くなって(まるくなって)眠る(ねむる)ヤマネ。その姿だけを思い浮かべていると、冬の森のカメラに動くヤマネが写ったら、少し意外です。九州で行われた調査は、冬眠(とうみん)という言葉からは見落としがちな、冬の活動を記録しています。

ヤマネは小さな哺乳類(ほにゅうるい)です。頭から胴(どう)までの長さは約8センチメートルで、長い毛が生えた尾(お)と、背中の暗い一本の線が目印になります。木の上で暮らし、主に夜に活動します。この小さな動物の冬を、カメラの記録から見ていきましょう。

この話のポイント

  • 木の穴などで冬眠(とうみん)するヤマネでも、冬じゅう動かないと一律(いちりつ)には捉えられない(とらえられない)。
  • 九州南部の調査では、冬にも繰り返し活動が撮影(さつえい)された。
  • 九州北部では、冬の一時期を除いてほぼ通年(つうねん)の活動が記録された。

木の穴で冬眠(とうみん)する、日本のヤマネ

文化財の保存や活用に取り組む文化庁(ぶんかちょう)の国指定文化財等データベースは、ヤマネを日本特産の動物として紹介しています。分布(ぶんぷ)する場所として挙げられているのは、本州、四国、九州の山地帯(さんちたい)です。同じ資料には、木の穴などで冬眠(とうみん)することも記されています。

冬眠(とうみん)は、普段の眠り(ねむり)をただ長く続けることとは違います。ヤマネは体温(たいおん)を下げ、体の働きを抑え(おさえ)て、使うエネルギーを少なくします。木の穴で丸くなる(まるくなる)姿にも、体から逃げる熱を抑え(おさえ)る働きがあります。こうした習性(しゅうせい)を知ったうえで、実際にいつ動くかを観察(かんさつ)すると、冬の暮らしがより詳しく見えてきます。

ここで見るのは、九州の南部と北部で、巣箱(すばこ)と自動撮影(さつえい)カメラを使って活動を調べた二つの研究です。冬眠(とうみん)するという一般的な特徴を否定するのではなく、その特徴が現地でどのように現れる(あらわれる)のかをたどります。

九州南部では、真冬(まふゆ)にも撮影(さつえい)された

南部の調査は、鹿児島県(かごしまけん)の南部にある標高(ひょうこう)の低い森林(しんりん)で、2013年12月から2014年2月に行われました。研究者は巣箱(すばこ)と自動撮影(さつえい)カメラを使い、冬期(とうき)の活動を調べています。研究者が書いた論文には、写真の数だけでなく、撮影(さつえい)の方法や限界も記されています。

ヤマネは冬にもたびたび撮影(さつえい)され、撮影(さつえい)の間隔(かんかく)は20日以上空くことがありませんでした。調査地の日平均(へいきん)気温(きおん)を平均(へいきん)した値は9.0度です。暦(こよみ)の上では冬であっても、観察(かんさつ)された活動を、長期間ずっと動かないという像だけに当てはめる(あてはめる)ことはできません。

著者らは、九州南部では冬眠(とうみん)する期間が短いか、暖かい時期に一部の個体(こたい)が目覚めて(めざめて)活動している可能性を示しています。また、暖冬(だんとう)には冬眠(とうみん)しない個体(こたい)が現れる(あらわれる)可能性にも触れています。研究では一匹(いっぴき)ずつを見分けていないため、写真が何枚あっても、同じ一匹(いっぴき)の眠り(ねむり)を追ったことにはなりません。冬眠(とうみん)しない個体(こたい)がいた、という説明も確定した結論ではありません。

九州北部では、30か月にわたって調べた

もう一つの研究は、長崎県(ながさきけん)の森林(しんりん)で、標高(ひょうこう)400メートルに置いた一つの巣箱(すばこ)を対象にしています。調査期間は2011年10月から2014年3月までの30か月。巣箱(すばこ)を訪れるヤマネを、自動撮影(さつえい)カメラで繰り返し記録しました。電池切れで写せない日もあり、全ての日の記録がそろったわけではありません。

その結果、ヤマネは冬の一時期を除いて、ほぼ一年を通して高い頻度(ひんど)で撮影(さつえい)されました。研究者は、約10日ずつに分けた上旬(じょうじゅん)・中旬(ちゅうじゅん)・下旬(げじゅん)の「旬(じゅん)」を単位にしました。2旬(じゅん)以上続けて写らない時期を冬眠(とうみん)期間と仮定(かてい)すると、3回の冬では5旬(じゅん)、8旬(じゅん)、6旬(じゅん)となりました。これは写真からの推定(すいてい)で、体温(たいおん)や一匹(いっぴき)の眠り(ねむり)を直接測った数字ではありません。

30か月の観察(かんさつ)には、冬だけでなく春から秋も含まれます。春から秋には2旬(じゅん)以上写らない期間が見られなかったため、冬の長い空白が目立ちました。南部との違いを考えるときにも、一つの巣箱(すばこ)の記録から、その地域の全てのヤマネの冬眠(とうみん)期間まで決められるわけではないことを覚えておきたいところです。

おわりに

今回は、ヤマネの冬の過ごし方について、九州の南と北の観察(かんさつ)から見てきました。木の穴で眠る(ねむる)姿と、冬のカメラに写る姿は、片方だけを正しいと決める必要がありません。眠る(ねむる)季節の中にも、場所や暖かさによって違う時間の使い方があるかもしれないからです。

カメラに写ったという記録だけでは、その前後にどれほど眠った(ねむった)かまで分かるわけではありません。それでも、冬じゅう動かないとひとまとめにしたときには見えなかった姿が、そこには残っています。冬眠(とうみん)という短い言葉の奥に、それぞれの森で過ごす冬がある。そう考えると、眠る(ねむる)ヤマネの絵の隣に、目を覚ました(めをさました)小さな姿も置いてみたくなります。